「ぴあ」休刊にみる競争要因

2011年7月21日 @ 09:07 PM
minamigawa

「ぴあ首都圏版」が本日発売の「最終号」で39年の歴史に幕を閉じる。

学生時代(80年代)「ぴあ」にはずいぶんお世話になった。

当時東京では旧作映画を安くみられる映画館や新作を少し遅れて上映するところ、マニアックな作品を上映するところなど、いろいろな映画館があった。

「ぴあ」で調べて「仁義なき戦い」を連続で一日で5、6本観たこともあった。見逃した「ブレードランナー」の上演している映画館を探し遠くまで観に行ったこともある。

映画だけでなく音楽や演劇などエンターテーメント情報を幅広く網羅しており、「ぴあ」を見ればいつ、どこで、どんなイベントがやっているか一目でわかる便利な情報誌であった。

学生時代の私にとっては斬新な本であった。一目でそれとわかる表紙のデザインもちょっとかっこよかった。

「ぴあ」を握り締めて場末の映画館に行くのが無性に楽しかった。

70年代発刊以降おそらく多くの若者が恩恵を受けてきたと思う。

「ぴあ」は映画や演劇好きの大学生などの仲間が集まって、6畳の下宿を編集室にして創刊させた。

80年代発行部数はピーク達した。

「チケットぴあ」のサービスも開始するなど80年代は常に時代のニーズを的確にとらえていた。

90年代になると発行部数も徐々に頭打ちになり、2000年以降はどんどん発行部数も減っていったという。

インターネットの普及や若者のライフスタイルの変化により「ぴあ」の役割がどんどんなくなっていった。

私自身青春時代の必需品であった「ぴあ」がなくなることはとても大きなショックであった。

寂しい気持ちを紛らわせるために「ぴあ」が苦戦していったエンターテーメント情報誌業界の環境をいろいろ考えてみた。

業界内の競争状況を分析にする手法としてマイケル・E・ポーターは「競争の戦略」の中でファイブフォースの分析が重要だと説いている。ファイブフォース(5つの競争要因)とは①新規参入の脅威②競争業者の敵対関係③代替製品の脅威④買い手の交渉力⑤供給業者の交渉力のこと。業界内の競争を分析し競争に勝つ戦略を作るには有効な分析だと学んだ。これをちょっと参考にしてみた。

「ぴあ」を取り巻く業界の競争状況は「東京ウォーカー」などの常に新しい情報誌がどんどん新規参入する厳しい環境であったこと。

主要な顧客である若者のライフスタイルはどんどん変化しレンタルDVDやスカパー、ネット配信の普及で映画館そのものが衰退していった。縮小する紙の市場の中で「シティロード」や「スクリーン」等情報誌、専門誌などと熾烈な競争をしなければならない状況であったこと

そしてもっとも大きなインパクトとして90年代以降にインターネットが急速に普及しウェブによる情報サイトという強力な代替製品が出現し「ぴあ」の運命を変えていった。

ネットの普及により買い手はいろいろなエンターテーメント情報が手軽にすばやく無料で手に入るようになり、「ぴあ」に載っている情報は価値がどんどん下がっていた。

状況を打開するためにこれまで「情報の価値判断をしない」とう方針を変更し編集者や有名人の評価を掲載する手も打つったらしい

しかしながらブログやツイッターなどのの普及とともに有名人や専門家の評価という商品の付加価値は昔のように高くはない。

むしろ無償の身近な一般人の評価にこそリアリティがあり参考になると考えることが多いような気がする。

昔に比べ明らかに買い手は「宣伝臭」を嗅ぎ分ける嗅覚は鋭くなっていると思う。

残念ながらこうして「ぴあ」は発行部数を回復できず休刊に追い込まれていったと推測する。

現在 SNS等が世界中に広がりダイナミックに世の中を変えている。

時には政権をもひっくり返すような力をもつようになってきた。

ビジネスでもこれまで代替とは考えていなかったものがある日突然代替製品になり大苦戦を強いられることもある。

新技術の開発で異業種の企業が参入して競争関係が全く変化することもある。

CDの売上に携帯電話が大きく影響していたり、デジカメの出現がカメラ業界に与えた衝撃など沢山ある。

買い手の情報に関する価値も大きく変化しておりこれまでの常識がなかなか通用しない。

インターネットで急成長した情報サイトですらSNSの広がりで危機感を抱き、立場も危うくなってきている状況である。

業界内の競争を考える時、どうしても同業他社にばかり注意がいってしまう。

様々な側面から競争要因を分析をして生き残り、成長戦略を考えなければいけない。

気がついたら「ぴあ」の休刊を通していろいろな考えを頭の中で膨らませていた。

ただこれだけは事実である「ぴあ」は若者のニーズによって生まれ、多くの人の共感を得てその後の情報誌にも多大な影響力を与えたこと。


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